日本の優れた伝統工芸に光をあて、その魅力を再考しながら、地域のモノづくりと人々の心に迫る「FIAT×MADE IN JAPAN PROJECT(フィアット×メイド・イン・ジャパン・プロジェクト)」。第19弾では、東北地方に伝わる「伝統こけし」に注目していきます。
子どもの頃、こけしに触れた経験があるという方や、遊んだ記憶があるという方もいらっしゃると思います。しかし、こけしが一体、どのような経緯で作られたのかご存じない方も多いのではないでしょうか?実際、こけしの起源については江戸時代中期に生まれたと言われているようですが、山で木材からお椀や盆を作っていた“木地師”と呼ばれる人々が、湯治場に来た子供に向けての土産品として木人形の玩具して作られた、と言われています。もちろんその可愛らしさや作品性から、大人にも愛されています。
こけしはろくろで挽いたあと、染料などで絵付けが行われる。角を削ぎ落とし、丸みを帯びた形をしているのは、子どもの玩具として作られたためと言われている。
東北には6県すべてにこけしの産地があり、それらは温泉地の近くや山間部を中心に発展しています。産地の伝統的な手法で作られるこけしは「伝統こけし」と呼ばれています。東北には全部で11系統の伝統こけしがあり、それぞれ形や構造、表情や胴の模様など、それぞれ特徴が異なっています。また、こけしの作り手は“工人(こうじん)”と呼ばれ、工人さんによっても個性が異なるようです。
さて、今回の東北こけしプロジェクトは、東北のいまと未来、女性のエンパワーメント、動物愛護、そして日本の伝統文化の魅力をお届けした2021年3月13日(土)開催のオンラインイベント「WOMEN for TOHOKU by FIAT」内でもご紹介。3月8日の「国際女性デー」のシンボルでもあるミモザの花をモチーフに、東北6系統の工人さんにオリジナルのこけしを手掛けていただきました。
なお、同コーナーで案内役を務めてくださったのは、株式会社ワポーターの代表取締役 飯村祐子さん。飯村さんは、日本の優れた伝統文化や工芸品を海外に発信するお仕事をされており、豊富な海外経験を生かし、製品のブランディングを手掛けています。
それでは「WOMEN for TOHOKU by FIAT」内では紹介しきれなかった内容を含め、それぞれのこけしの特徴を詳しく見ていきましょう。
右からLITAARTISAN(リタアルチザン)の小池周湖さん、株式会社ワポーター代表取締役の飯村祐子さん、FCAジャパン株式会社 マーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセ、MCのnicoさん、NPO法人メイド・イン・ジャパン・プロジェクト副代表理事の長江一彌さん。写真は、オンラインイベント終了後の1枚。
吾妻連峰に囲まれた土湯温泉に伝わる「土湯系こけし」。背の高いエンタシス型や底部が台状の太子型の胴、ろくろの回転を生かして描いたろくろ模様、たまご型の顔が特徴です。
福島県の土湯系こけし(野地三起子工人作)
土湯系の野地三起子工人が製作したこけしは、太子型の胴、上下にまぶたがある二側目、ろくろ模様など、土湯系の特徴を受け継ぎながら、師匠である故 野地忠男さんから受け継ぐ、イタリア発祥とも言われるシルクハットを被った“ハイカラこけし”。シルクハット部分、ならびにろくろ線の間にミモザが描かれた本作品。産地の伝統を受け継ぎながらも、個性のある素敵なこけしに仕上げていただきました。
宮城県・鎌先温泉近くの弥治郎村に古くから伝わる「弥治郎系こけし」。大きな丸い頭部には、色鮮やかなろくろ模様が描かれています。胴は直胴のほか、裾が広がった「ぺっけ」と呼ばれるものがあります。今回、新山真由美工人が手掛けた弥治郎系こけしも、このぺっけを取り入れています。
宮城県の弥治郎系こけし(新山真由美工人作)
上まぶただけの一側目。鼻と口は小ぶりに描かれ、どこか優しさが感じられる表情です。ろくろ模様を生かしながら、首飾りと裾の部分にミモザの花が描かれています。新山工人は、ミモザの色を忠実に再現するために、通常の染料ではなく顔料を使用。その甲斐あって、優しさと明るさに溢れたこけしが完成しました。
宮城県・北部の鳴子温泉は、江戸時代末期から賑わう温泉街。その地に集まった木地師たちが木地玩具などの土産物を作るようになり、その後鳴子はこけしの産地へと発展。独自の技法で作られたこけしは「鳴子系こけし」と呼ばれています。そんな鳴子系こけしの技法がルーツとなり、他の地域で生まれたこけしは“外鳴子系”といい、なかでも秋田県由利本荘で生まれたこけしは「本荘こけし」と呼ばれています。
秋田県の本荘こけし(佐藤こずえ工人作)
今回、本作品を手掛けたのは、佐藤こずえ工人。本荘こけしの特徴である井桁模様にミモザの花を散りばめるとともに、髪や目を緑色にしたミモザの妖精をイメージした作品が完成。地域に伝わる伝統的な特徴を押さえながらも、個性的で愛らしいこけしに仕上がっています。
青森県の「津軽系こけし」は、表情が多彩。山谷レイ工人が手掛けた津軽系こけしは、ひときわ個性的な表情を浮かべています。山谷工人によると、山谷家では昔から個性的な作品を手掛けているそう。なかでも、山谷さんのご祖母は目がパッチリな、ギョロっとした目の作品をよく手掛けていたそうです。今回の作品は、その特徴を受け継ぎながらもアレンジを加えたそうです。
青森県の津軽系こけし(山谷レイ工人作)
ろくろ線をレインボーカラーで表現するとともに、花冠と胴にミモザの花をあしらった、可愛らしい装飾のこけしが完成。代々伝わる作品の特徴を大切にしつつ、ご自身で工夫を凝らした本作品。表情も含め、こけしづくりを楽しんでいる様子が伝わってきます。
大きめの頭に、三日月目の瞳。頭部には「手柄」と呼ばれる放射状の飾りが特徴の「蔵王系こけし」。どっしりとした胴には華やかな模様が描かれ、眺めているだけで楽しい気分にさせてくれます。
山形県の蔵王系こけし(梅木直美工人作)
今回、蔵王系こけしを手掛けたのは、梅木直美工人。綺麗な黄色で彩られた胴はミモザを表すと同時に、もともと蔵王系こけしの特徴のひとつとのこと。その黄色の胴に、ミモザの花と梅木工人の師匠である梅木修一さんが考案した紫のろくろ線を描くとともに、頭の手柄模様を一般的な赤色ではなく、オレンジ色でコーディネート。全体のバランスを考えながら、配色をアレンジした存在感のある作品です。
岩手県の「南部系こけし」は、キナキナと呼ばれ、顔や模様を描かないのが特徴。もともと赤ちゃんのおしゃぶりとして作られたため、あえて柄を加えなかったそうです。また、頭がゆるくはめ込まれ、ぐらぐら動く構造となっています。
岩手県の南部系こけし(田山和泉工人作)
今回の作品を手掛けた田山和泉工人は、キナキナをベースに木地の上にミモザを描き、可憐な花が浮かび上がる印象。スラッとしたプロポーションも素敵で、シンプルでありながら目を引く作品に仕上がっています。
それぞれの工人さんの想いが詰まった東北の伝統こけし。産地の伝統を継承し、師匠や過去の作品に敬意を払いながら、ご自身の想いを込めて、作品づくりに励んでいることが伝わってきました。
こうして産地ごとの特徴を知ると、こけしを眺める時の楽しみが、ますます広がりそうですね。ぜひ、みなさんも日本に古くから伝わる「伝統こけし」に注目してみてください。
ご協力くださった工人のみなさま、ありがとうございました。Ciao!
参考文献
イラストレーションでわかる伝統こけしの文化・風土・意匠・工人 こけし図譜/佐々木一澄 著・誠文堂新光社 発行
FIAT×MADE IN JAPAN PROJECTとは?
イタリアでは「アルチザン」、日本では「職人」と呼ばれ、
それぞれの優れた伝統文化とその技術を受け継ぐとともに、日常の中で実際に使われ、愛される「ものづくり」に魂を込めている人々がいます。
イタリアの「ものづくり」文化を代表するフィアットでは、日本の文化ともっと交流し、もっとCuore(クオーレ:心)を通わせ合いたいとの想いから、ひとつの特別なプロジェクトを立ち上げました。
それは、日本の「ものづくり」文化継承を目的にするNPO法人「メイド・イン・ジャパン・プロジェクト」とのコラボレーションによって、日本の優れた伝統工芸品に、新たな光をあてる活動です。
文化が出会い、心がつながり、笑顔を育んでいくこの取り組みに、これからも、ぜひご注目ください。
詳しくはコチラ
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