日本で人気のイタリア料理といえば、パスタ、ピッツァ、アクアパッツァ……。これまで、fiat magazine CIAO!でもさまざまなイタリア料理をご紹介してきました。では、パンツェロッティ(Panzerotti)という料理はご存じでしょうか?
パンツェロッティとは、イタリア発祥の「揚げピッツァ」のこと。日本ではまだ聞き馴染みのない方も多いかもしれませんが、イタリアでは家庭料理のような存在です。
伸ばした生地に具材を包み、竃で焼かずに油で揚げることが特徴。丸く焼いた通常のピッツァは、カットする手間や、食べるときに具材が滑り落ちる心配がありますが、パンツェロッティはその形状から片手で食べることができるため、イタリアではファーストフードとしても親しまれています。
日本ではまだあまり馴染みのないパンツェロッティですが、その専門店が東京都渋谷区の松濤にあります。
京王井の頭線の神泉駅から徒歩約5分。白と黄色のストライプのかわいらしい看板が見えてきます。店名は、「PANZEROTTERIA / パンツェロッテリア」。本格的なイタリア料理に加えて、常時約40種類の揚げピッツァが楽しめるお店です。
出迎えてくれたのは、オーナーの西正博さん。お店を始める前にイタリアの地で25年間を過ごしたという経歴の持ち主です。
西さんがパンツェロッティと初めて出会ったのは、まだイタリアに日本人が少なかった1980年代。ミラノのインテリアデザインの学科に留学していたときのこと。
当時は、ランチとディナーの食事の合間に、小腹が減っても間食できるお店がほとんどありませんでした。その中で、ドゥオーモの近く、ミラノ市街の中心地にある「Luini(ルイーニ)」という1軒のパン屋さんが、揚げピッツァこと「パンツェロッティ」を提供しており、そこで食べたのが最初の出会いになったそうです。
「具材はトマトとチーズのみ。それらを生地で包んで揚げたシンプルなものでしたが美味しかった」と、西さんの記憶に残る味わいとなったそうですが、そのまま料理の世界に進んだというわけではありません。
西さんは大学を卒業後、ミラノやニューヨークの各地でアパレルの仕事を経験した後、イタリアで食品業界のコンサルティングの仕事に携わります。そこでイタリアンフードに興味を持ったのが最初のきっかけとなり、2012年に日本に戻ったタイミングでパンツェロッテリアをオープンすることになりました。
「当時からナポリピッツァ専門店やスパゲッティ専門店はすでにたくさんありました。元々イタリア人がやっていることをそのままやりたくない、という想いがあり、学生時代に慣れ親しんではいたけれど、日本ではまだマイナーな存在だった「パンツェロッティ」のお店を出すことに決めました」
1品目は「熟成ハム各種盛合わせ」。イタリア製のミートスライサーの大きな刃が回転すると、ハムの塊があっという間に薄切りに。ハムはすべてイタリアから仕入れ、注文の度にスライスされます。
この日はプロシュート、モルタデッラ、カポコッロ、パンチェッタ、ラルド、マントバの生サラミの6種が盛られていました。
付け合わせは、「ニョッコフリット」。ピッツァ生地をフライしたものです。
「熱々のうちにハムを乗せて食べると、脂が溶けて美味しいですよ。ちなみに地域性の強いイタリアでは、このニョッコフリットのことをパンツェロッティと呼ぶ地域もあったりするんです」と西さんは言います。
イタリア直輸入のハムたちは、部位によって味も食感もさまざま。イタリアのワインを片手に食べ比べて、お気に入りの種類を見つけてみるのもおすすめです。
続いてのお料理は、彩り豊かな「カタラーナ風シーフードサラダ」。カタラーナはイタリア語で、「スペインのカタルーニャ」という意味ですが、イタリアではポピュラーなサラダです。
カットした野菜の上に、オリーブオイルで油通ししたタコやホタテを乗せて、仕上げにトマトやサーモン、オレンジをトッピング。今夏からメニューに入ったそうですが、さっそくお店で一番人気のサラダになったそう。
あざやかな見た目もさることながら、シーフードの旨味とオレンジの甘味がマッチしたその味は絶品。オリーブオイルと塩胡椒のみのシンプルな味付けで、素材の美味しさがしっかり引き立っています。
前菜の次はいよいよ「パンツェロッティ」を作っていただきます。
「パンツェロッテリアでは前菜やお肉料理などを召しあがっていただいた後、食事の最後をパンツェロッティで締めていただくことをおすすめしています。日本の蕎麦屋と同じスタイルというと分かりやすいでしょうか。
イタリアではファーストフードですが、パンツェロッテリアではどちらかというとスローフードとしてご提供しています。そのため、味のバリエーションにもこだわり、40種類近くのオリジナルパンツェロッティを創作しています」
パンツェロッティはオーブンで焼くピッツァの生地とは少し異なり、あまり発酵していない生地を使います。パンツェロッテリアで使われる生地は、研究を繰り返して調合されたオリジナルのもの。外側はサクッ、中はモチッと、揚げピッツァならではの食感を楽しめるよう、厚さ3mmくらいで丸く伸ばすのがベスト。気温の変化によって、生地のコンディションも変わるので、季節によっては水分の調整も必要です。
生地のベースができたら、自家製トマトソースをたっぷりと敷き、「ボッコンチーノ=ひと口サイズ」の水牛のモッツァレラチーズをのせていきます。
具材を半月状に包んで、余分な生地をカットして耳を作ったら、いよいよ揚げの工程へ。
パンツェロッテリアでは揚げる際の油にもこだわり、綿の実から採れる「綿実油」を使用しています。オリーブオイルよりも軽い油のため、女性やご年配のかたでもお腹がもたれたりすることも少ないです。西さんがパンツェロッティをテーマにしたお店を始める決め手となったのも、この「綿実油」との出会いがあり、その味わいに感動したからだそうです。
生地が膨らんで、うすいきつね色になったら「イタリア産水牛モッツァレラチーズとバジルのマルゲリータ」のパンツェロッティの完成です。
こちらが「パンツェロッティ」。同じピッツァの仲間でも、いつものそれとは全く見た目がちがいます。パンツェロッティにそっくりなイタリアンフードに「カルツォーネ」がありますが、こちらは油で揚げずに、通常のピッツァ同様に竃で焼き上げたピッツァのことを指します。
噛むと揚げピッツァならではのサクッとした歯ざわりと、モチッとした内側の生地の食感。ほどよく酸味のある自家製トマトソースとコクのある水牛のモッツァレラチーズの相性は抜群です。バジルの香りも良いアクセントととなり、ペロッと食べれてしまいます。お店にはイタリア人のお客さまも良く来るそうですが、そのほとんどはこのマルゲリータを注文し、何個も食べる方も多いそうです。
実はここ数年で、本場イタリア発の専門店がオープンしていたりと、日本におけるイタリアンフードのネクストトレンドの可能性を見せる、揚げピッツァこと「パンツェロッティ」。
しかし、パンツェロッテリアのオーナー西さんは「お店構えてからそろそろ9年目になりますが、パンツェロッティの知名度はまだまだです。このお店を通じてもっとパンツェロッティを知ってもらい、女性同士、カップル、男性が一人でも、カジュアルかつシックに集えるお店にしていきたい」と言います。
本場イタリアでも味わえないこだわりが詰まったパンツェロッティを、ぜひ一度味わってみてください。きっとやみつきになりますよ。
パンツェロッテリア / PANZEROTTERIA
東京都渋谷区松濤2-14-12 シャンボール松濤105
Tel 080-2675-7216
平日 18:00~24:00(L.O.23:00)
土日祝 12:00~14:00(L.O.13:30)・18:00~24:00(L.O.23:00)
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