行き場を失った動物たちを保護し、愛情を持って迎えてくれる里親を探す活動を行っている動物保護団体のアニマルレフュージ関西(以下アーク(ARK: Animal Refuge Kansai)。1990年設立以降、犬猫あわせて6,000頭以上の動物たちを保護し、新しい家族に譲渡してきました。アークを立ち上げたのは、英国人のひとりの女性、エリザベス・オリバーさん。なぜ来日し、アークを立ち上げたのか。30年の歩みとアークへの思いをインタビューさせていただきました。
動物を愛し、共に生き、積極的に救いの手を差し伸べようとしている人のネットワークをつくることを目的に、1990年に設立されたアーク。そもそも、日本で活動を開始したきっかけはどのような理由だったのでしょうか。
「実は最初は日本に行くことは考えていませんでした。きっかけは大学を卒業後、旅先で出会った日本人の方です。イギリスからモスクワ、北京、香港と旅をしていたのですが、その旅の途中で日本人の方と知り合い『日本に来たら遊びに来てくださいね』と名刺をいただきました。香港でオーストラリアに行くか日本に行くか悩んでいたときに、ちょうど港から神戸行きの船が出航するタイミングで、思い切って船に乗り込んだのです。日本に到着後は名刺をいただいた方に会いに行きました。その方は驚いていましたがとても親切にしていただきましたね(笑)。しばらくは英語の教師をしながら日本に住みましたが、もっともっと日本語を覚えなければ!と思い直し、いったんイギリスへ戻って大学で1年間、日本語を学びました。」
旅先で出会った日本の雰囲気を気に入ったオリバーさんは、再び日本に戻り、英語教師で生計を立てて、日本に住むことに。
「空いた時間では動物保護団体で週に一度、ボランティアをするようになりました。また犬と猫もレスキューセンターから引き取り新しい家族を迎えました。しばらくして、自然豊かな能勢町にある、家を購入しました。その家の裏には牛小屋があったので、幼き頃から好きだった馬を2頭迎えました。馬は3歳半から乗っていて、7歳のときには自分の馬を飼っていたのでずっと馬も飼いたかったのです。」
7歳で馬を飼う際に、オリバーさんはお母様と「責任を貴方がとれるなら馬を飼いましょう」という大きな約束があったそうです。当時オリバーさんはきちんと約束を守り、自分のことよりも馬の世話を優先させました。『命』を預かる責任を7歳のときから十分に理解していたのです。
オリバーさんが能勢町に移り住んだことがアークのはじまりにつながります。
犬と猫と、馬2頭との暮らしと、ボランティア。最初は動物が好きという理由からボランティアに参加していたオリバーさんでしたが、だんだんと動物たちの窮状を知るにつれ、自身で何か動物たちの幸せのために手助けすることができないかと考えるようになっていきました。
「ボランティアをしていた団体にはかなりの数の犬、猫たちがいました。でもある一定期間を過ぎると安楽死の選択がなされていました。私自身は、安楽死は反対派ではありませんが、人がサポートすることで生活の質が保てるのであれば、何とかして命を守り、里親を見つけて新しい家族と出会ってほしいという思いが強くなっていきました。その想いを形にしたのが個人で始めたアークの前身です。英語教師を続けながら、自宅で保護した犬たちの世話をする生活が始まりました。サポートは友人やボランティアの人たちです。次第に動物たちが増えていき、個人ではお世話が難しくなってきたので、1990年、個人から団体に切り替えて活動するようになりました。」
1990年にアークを設立。そしてその5年後、アークに大きな転機が訪れます。それは1995年に起きた阪神淡路大震災です。
「神戸で震災があって、アークの活動は本当に大きく変わりました。震災で保護する動物が約600匹に増えて、1年間で3倍になりました。当時は寝食ともにしていた友人、ボランティアの方とともに避難所に行って動物を探す日々。朝5時に帰ってきて1時間仮眠をとって、6時に仕事を始めるような日が続きました。犬だけでなく、猫やうさぎ、鳥も預かりましたね。動物たちのお世話ができなくなった人たちの中には放棄したくない方もいましたので、アークでお預かりした子たちもいました。急激に増えた動物たちを保護し、良い環境でお世話するためには、動物たちが安心して過ごすための住まいとなるシェルターと、多くのスタッフが必要になることを痛感した出来事でした。」
1990年設立以来「今目の前にいる子たちのために何ができるのだろう?」と常に自問自答し、ひとつずつ問題を解決してきたオリバーさんに、改めて、今のアークの活動拠点、仕事について伺いました。
「現在アークは、大阪府の北西部、自然豊かな山間地区に位置する、能勢町と兵庫県の丹波篠山市に動物たちの保護シェルターを所有しています。能勢にある大阪アークは約1000坪の広さで犬と猫を、2014年に新しく作った篠山アークは約7000坪という広大な敷地を持ち、犬とウサギを保護しています。東京にも事務所があり、ここでは保護した動物たちを里親に出す前に、家庭で預かってお世話をする「フォスター制度」の手配や、里親会の開催、各種チャリティーイベントなどを開催し、アークの広報活動を行っています。
アークの活動は動物たちの保護をするだけでなく、治療をはじめ、人や他の動物たちとの触れ合い、トイレや散歩など総合的な社会化のトレーニングなどの心身のケアを行っています。同時に里親探し、望まれない犬や猫をなくすための不妊去勢手術の推奨を行っています。また保護するだけでは根本の問題は解決しないので、日本の動物福祉水準の向上のための啓蒙活動や、飼い主さんや子供たちへの教育、行政への働きかけなどさまざまな取り組みを行っています。
日本の動物福祉は歴史が浅く、動物関連の法律もまだまだ弱い。動物たちを守るためにはまだまだ改正が必要なのです。」
コロナ禍でさまざまなイベントが中止になっていますが、アークで変わったことはありますか?
「1年に一度、アークを卒業した犬たちが里親さんと共に集まる同窓会やイベントなどが中止になったことはとても残念なことですが、オンラインで開催されたイベントへ参加したり、インスタライブを配信するなど、初の試みをしました。今後も形を変えて発信を続けていきたいと思っています。
今もっとも深刻なのは、経済の問題です。コロナ禍で仕事を失った方が増えてきています。仕事が無くなり、家も引っ越しするなどで環境が変わったことで、動物たちを飼うことができなくなり手放すというケースです。これは今後も増えるだろうと考えています。また少し子猫が街に増えたという影響も。これは猫を捕獲して(Trap:トラップ)、避妊不妊去勢手術(Neuter:ニューター)を行い、元の場所に戻す(Return:リターン)というTNR活動がコロナ禍で自粛または縮小していることが影響していると思います。」
現在、保護している動物は約120頭。これらは専従のスタッフ約20名を中心に動物たちの世話や施設の維持をしています。それらの活動資金は全て寄付や会費でまかない、さらに多くのボランティアの方々がアークの活動を支えています。「Share with FIAT」を合言葉に、さまざまな社会貢献活動をサポートしているFIATもアークを応援するパートナーのひとつ。改めてアークとFIATの関係はどのようなものなのでしょうか。
「篠山シェルターにあるドッグランをサポートしてくださったのがFIATさんです。おかげで動物たちが心地よく過ごせる場所がさらに増えました。ドッグランは運動や遊び場として活用するだけでなく、施設の清掃をするときは、ドッグランに移動させています。昨年まではFIATバースデーイベントに参加したり、今年はオンラインで開催された「FIAT PICNIC 2020」に東京アークからスタッフがトークセッションに参加させていただきました。
アークの活動を幅広く知ってもらうためにもパートナーの存在はとても嬉しくありがたいです。実は私は車がとても好きなので、車と触れ合えるイベントも個人的には楽しみにしています(笑)。」
動物たちの幸せを願い、常に今必要なこと、やるべきことに集中して、ひとつずつ歴史を積み重ねてきたアークの活動。いまアークにある環境は、動物たちへの愛の結晶ともいえます。2020年でアークの活動はちょうど30年。今後はどのような未来を描いているのかを伺いしました。
「私自身、あれもこれもと同時進行はできない性分。ひとつのプロジェクトをゴールまで運んだら次のプロジェクトに移る…というスタンスで繰り返してきたら、日本に来てから50年が過ぎ、アークの活動は30年を迎えて、今の環境があります。そしてひとつずつ、必要なプロジェクトをゴールまで運べたのは、全てはみなさんのご支援、たくさんの方々のご協力のおかげです。
そして今後も実現したいプロジェクトがたくさんあります。
例えば高齢者の問題。先に飼い主さんが亡くなった場合、動物たちをどうするのか。イギリスには事情があって飼えなくなった場合は引き取る施設がたくさんあります。でも日本は飼えなくなった場合、保健所に引き取ってもらう選択肢しかないのが現状です。日本にもイギリスのようなシステムが必要だと思っています。また篠山は土地も広いので、自然の中のシンプルなメモリーガーデンを作りたいと思っています。それから篠山にはすでにドッグランはありますが、一般の方も利用できるドッグランを新たに用意できたらという構想もあります。気軽にシェルターに来てもらうきっかけにもつながると考えています。
篠山は2014年に犬舎が完成しましたが、全体の完成はまだまだ先。アイデアは尽きません。篠山には「サンクチュアリ(安全な場所)」という名前をつけましたが、この名前の通り、動物たちが安心して過ごせる場所にしたいと思っています。」
ただ目の前の命を救い、新しい家族につなぎ、動物たちに幸せになってもらいたい…、その一念で30年の活動を続けてきたオリバーさんが何よりも楽しみしているのがアークを卒業した動物たちと再会できる春の同窓会。コロナ禍で今年は中止になってしまいましたが、同窓会で彼ら彼女たちの表情を見ると、幸せいっぱいな様子が伝わるそう。30年、休むことなく活動を継続できた秘訣はなんですか?と尋ねたときに「動物たちが幸せになること、これが一番。」と即座に答えた真っすぐな瞳と優しい声色が印象に強く残りました。
Interview&text/Suzuki Tamami(officetama Inc.)
Photo/ Sae Kodama
動物の引き取りから里親探しまでを行う 動物保護団体「アニマルレフュージ関西(アーク)」
http://www.arkbark.net/
ペットと楽しむカーライフを応援する「FIAT LOVES PETS」
https://www.fiat-jp.com/ciao_cp/pet/
フィアットがサポートする社会貢献活動「Share with FIAT」
https://www.fiat-jp.com/share/
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